不動産はその存する土地に固定されてしまうので、転勤や離婚などで使用しなくなった場合は扱いに困ることになります。
ただ持っているだけでは不動産は税金や維持管理費など費用がかかり、出費だけがかさむので「負債」となってしまいます。
そこで売るか、もしくは賃貸に出して家賃収入を得る方法が検討されますが、どちらの選択肢が良い結果を生むことになるのでしょうか。
この章では自分で住むことができなくなったマンションや戸建てを売るか貸すか、メリットやデメリットを確認しながらどちらがお得なのか考えてみましょう。不動産売却の流れを理解しよう!
売却するメリットは?
まずは売却処分することのメリットから確認していきます。
まとまった現金が手に入る
不動産は売却することで数百万円規模~のかなりまとまった額の現金を手にすることができます。
例えば何かの事業の運転資金に利用したり、借金の返済に用いることができる他、新しい不動産を購入する資金に活用することもできます。
大きな金額の買い物はローンを組んだり分割払いで対応できることもありますが、金利利息や手数料が余計にかかってしまいます。
売却代金を支払いに充てれば、大きな買い物も一括で支払うことで余計な出費を避けることができます。
賃貸のように多くのリスクを抱えることなく、安全に、確実に現金化ができます。
維持管理費の出費が要らなくなる
不動産は保有しているだけでも様々な維持管理費がかかってきます。
人に貸すにしても、所有者としてこれらにかかる維持管理費の支出は避けられません。
むしろ、人に貸すためにはしっかりと管理する責任が生じるので、空き家にしておくよりもメンテナンス費用がかかります。
マンションの場合は賃貸に出したとしても、あくまで所有者に管理費や修繕積立金の支払い義務が生じますので、その負担は残ることになります。
また税金面では固定資産税や都市計画税がかかります。
売却すれば「所有者」ではなくなるので、こうした維持管理費の支払いや手間も一切不要になります。
煩わしい人間関係がない
マンションや一軒家を人に貸すということは、つまりは「大家さん」になるということです。
自動販売機やコインロッカーなどの経営と違って、住居の賃貸では借り主との関係は避けては通れません。
アパート経営などではよく賃借人がトラブルを起こすなどして大家さんが大変な思いをすることがありますが、例えマンション一室や一軒家であっても賃貸に出せばそうした可能性が少なからず生じることになります。
売却してしまえば瑕疵担保責任を除いては一切関係を保ち続ける必要がないので、煩わしい付き合いに振り回されることはありません。
瑕疵担保責任についてはこちらの記事『不動産売却で問題になる「瑕疵担保責任」とは?』をお読みください。
売却するデメリットは?
では今度は売却することのデメリットを見てみます。
思い出の喪失
これは心理的なものですが、思い出のある実家などであれば人手に渡ってしまうことで喪失感が生じるかもしれません。
長く住み続けた家ほど心理的な喪失感は強くなるでしょう。
売ってしまったらもう利活用できない
買い戻しの特約などを付ける場合は別ですが、通常は売ってしまえば買い戻すことは難しいので、「やっぱり自分が住みたい」とか、「兄弟に貸す」といったこともできなくなります。
将来的に本当に使う可能性がないのか、よく考えて売却に臨む必要があります。
土地の値上がりに伴う利益喪失
家屋に関しては経年劣化がありますから将来的に値が上がるということは通常ありませんが、土地に関しては相場に変動が出ることがありますので、もし将来土地の値段が上がった場合はその前に売ってしまうことで値上がり分の儲けを逸失することになります。
売却する前に、近い将来土地の値段が上がる可能性がないかどうか、土地開発などの情報をある程度はリサーチした方が良いかもしれません。
▼自分で土地や不動産の相場を調べる際に便利なサイトなどを掲載しています。
不動産売却時に自分でできるマンションや土地の相場の調べ方!
買い手が付きにくい物件もある
特に古い一軒家などはそれを欲しがる購入希望層がそれほど多くないことから、買い手が付きにくいこともあります。
都市部にある物件であれば比較的買い手は見つかりやすいですが、郊外や地方にある物件ではなかなか買い手が付かないこともあります。
マンションの方は一軒家よりも回転が良いのでそれほどリスクはありませんが、一軒家の場合は需要が少ない分不利になります。
譲渡所得税がかかる
不動産を売って譲渡益が出た時はその儲けに対して不動産譲渡所得税が課税されます。
マイホームの場合は一定の要件を満たすことで譲渡益から3000万円を控除できる特例が使えるので活用してください。
賃貸に出すメリットは?
では今度は賃貸に出すことのメリットを見てみます。
借り手が付けば安定した家賃収入が得られる
継続した安定収入は経済的にも心理的にも心強いものです。
物件を賃貸に出してうまく借り手が付けば、その間は家賃収入を得ることができます。
ただ、昨今はマンションでも空き室の増加など空室リスクに悩まされる大家さんが大勢いいるので、その点は考慮が必要です。
将来的な利活用を検討できる
所有権を手放すわけではありませんから、物件の維持管理をしっかりやっていれば、将来的な利活用を検討することもできます。
土地の値上がりを期待できる可能性がある
将来的に土地の値段が上がることが予想される場合、それまでの間人に貸して家賃収入を得ておき、値上がりしたら売って売却利益を得ることも可能です。
賃貸に出すデメリットは?
次に賃貸のデメリットを見てみます。
貸し手としての責任が生じる
大家さんになるわけですから大家業としての責任が当然生じます。
貸し手は、借り主がその物件を十分に活用して快適に住むことができるように環境を整え、維持する義務が生じます。
設備に不具合が出ればすぐに修理の手配をしなければなりませんし、日常の小さな苦情にも対応しなければなりません。
自動販売機の経営と違って、自動的に家賃だけが転がり込んでくるのではなく、日常的に責任をもって物件を管理しなければなりませんし、「人対人」の付き合いを求められるので、そうした対応ができない、あるいは人づきあいが好きではない人にとっては大変ストレスを感じることになるでしょう。
「いつどんな苦情が来るか分からない」という状況に四六時中おかれるのは、精神的になかなかきついものがあります。
管理業者の手数料がかかる
日常的な物件管理や借り主との対応などが面倒、あるいは遠方に居るため物理的に対応できないという場合には、管理業者を付けることもできます。
しかし当然業者に対する費用がかかりますから、家賃収入の収益を相当圧迫します。
金銭的なメリットが薄まり、大家としての責任なども考えると旨みがほとんどなくなってしまうことも考えられます。
維持管理に様々な費用がかかる
売ってしまえばその後は維持管理のことは考えなくても良いですが、賃貸の場合は所有者としてメンテナンス等にかかる費用などの出費は避けられません。
一定間隔で外壁の補修や塗装の塗り直し、あるいは屋根の張り替えなどを行う必要があり、相当な費用がかかります。
一般的に、以下のような出費は賃貸に出す場合の費用としてかかってきます。
- 修繕や補修などのメンテナンス費用
- 固定資産税などの税金
- マンションの場合、管理組合に支払う通常の管理費や修繕積立金
- 賃貸を仲介する不動産業者への手数料(概ね家賃一か月分)
- 管理業者に支払う手数料
- 自分で対応する場合は移動費や交通費
- 損害保険料
- 借り主や管理業者とのやりとりのための通信費
敷金や礼金、契約更新料など一時的な収入もありますが、基本的にはこれらの費用を月々の家賃でまかない、さらに利益を出せるのかどうか綿密に計算して考えなければなりません。
「先行リフォーム」が必要になることもある
不動産を売却する場合、通常は売却前に先行して大がかりなリフォームをすることはありません。
しかし賃貸に出す場合、人が心地よく住める状態にしたうえでなければ誰も借りてくれません。
売却と違って買い手が事後的にリフォームするような手間と費用を承知することは通常ありませんし、「すぐ住める状態」でなければ見向きもされないでしょう。
昨今話題になることがある「田舎暮らし」などの目的の場合はまた別ですが、仕事で引っ越してきた人がリフォームのことなど考えている余裕はないでしょうね。
ですから一般的にはすぐに住める状態にしておく必要があり、それなりのお金をかけて最初から人に貸し出せるような状態にしておかなければなりません。
特に一軒家では劣化した設備を一新するなどまとまった費用がかかることがあります。
空室リスクがある
賃貸に出す場合の最大の問題は空室リスクでしょう。
近年の不動産投資ブームも手伝って賃貸業に手を出すサラリーマンの方も多いですが、皆が賃貸経営に成功しているわけではありません。
むしろ思ったように利益を上げられず苦しんでいる人の方が多いのではないでしょうか。
少子化や人口減少問題に住宅の供給過剰も手伝って、地方都市でマンションの空室が増加しているという話を聞いたことはないでしょうか?
都心など一部のエリアはオリンピック特需などで活況なところもありますが、大部分は需要に対して供給の方が多いため借り手がなかなかつかないことも十分予想されます。
特に一軒家の場合ファミリー層が主なターゲットになりますが、その地に移り住むファリミーがいて、なおかつ対象物件を気に入ってくれなければ需要と供給が一致しません。
地方にある一軒家だと、そもそもそこに移り住む人があまりいないこともありますから、空き家のままになってしまうことも十分予想されます。
経年劣化による資産価値の減少
建物は経年劣化がありますから、どんどんと価値が値減りしていきます。
最初は賃貸に出して将来的に売るかどうか考えようという場合、いざ売ろうとした時には査定額が極端に低くなってしまったり、買い手が付いても「古いんだからもっと値を下げてよ」という交渉が入ることになります。
マンションなどは新築から10年経つとほとんど価値がなくなってしまうとされており、一般的に10年経過後のマンションは人気が無いのでかなり値を下げて売らないと買い手が付きません。
一軒家であっても当然経年劣化があり、むしろマンションよりも老築化が目に見えやすいので売りにくくなるのは必至です。
賃貸に出している間に「売り時」を逃してしまうと、売り手と買い手のパワーバランスが逆転してしまい、いざ売ろうとした時に有利な売却ができなくなります。
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不動産を売却するのに適した時期やタイミングを調査!税制や市況や季節を考慮したタイミングについて
正確なシミュレーションが難しい
売却と違って、賃貸を考える場合はその不動産からどれだけの利益をどれだけの期間得られるのかといったシミュレーションが大変重要になってきますが、これが難しいのが問題です。
例え不動産業者であっても、長年自ら賃貸経営をしてきた実務家でなければ、長い将来にわたる正確なシミュレーションは難しいのです。
その土地にある不動産に特化して、当該地域での実需の研究を長年してきた人、もしくは実際に賃貸経営でしっかりとした利益を出している人をアドバイザーに付けなければ、精度の高い予想を立てることは難しく、堅実な賃貸経営を続けていくことは困難でしょう。
税務処理は必要
賃貸の場合も、利益は不動産所得として所得税の対象になります。
売却に伴う不動産譲渡所得税とはまた別の税目になるので、経理処理を行い確定申告の手続きにも対応しなければなりません。
特別な理由がなければ売却がおススメ!
定期的な家賃収入は魅力的ですが、それが得られる保証がないことが賃貸に出すことの問題でしょう。
冷静に考えて、あなたは「大家さん」として借り主と付き合いながら一定の実務をこなせますか?またトラブルなどへの対処が苦にならずにできるでしょうか?
賃貸経営によってしっかりとした利益を将来にわたって出せるのかという金銭的な問題と、大家業をこなしていくという実務的な問題を考えて、「やれる!」という確信のある人はそう多くないでしょう。
もし賃貸経営に興味があって、一度やってみたというのであれば経験を積むという意味では良いのかもしれません。
しかし家屋については経年劣化によってどんどん価値が下がっていくことは忘れないようにしてください。
ここで、以下の項目を確認してみましょう。
- 今後2年~3年以内に自分でその家に住むことはない
- 維持管理や修繕などにお金と時間をかけたくない
- 賃借人との付き合いはできれば避けたい
- 賃貸経営の勉強に時間をかけたくない
- リスクはできるだけ避けたい
これらの項目の二つ以上に当てはまるのであれば、賃貸でリスクを負うよりも売却して安全にお金に換える方が推奨されます。
賃貸か売却はどっちがお得?のまとめ
今回はマンションや一軒家などの家屋について、売るか貸すかどちらがお得か考えてみました。
売却も賃貸もそれぞれ一長一短あり、物件の状態や存する地域などによってもシチュエーションは全く異なりますから、どちらが良いかというのは個別ケースで考えていかなければなりません。
また不動産の保有者自身に賃貸経営の素質があるかどうかも重要です。
多くの場合、不動産経営については明るくないことが多いと思いますので、賃貸に出すことのデメリットやリスクを考えると、実務的な問題や利益をしっかり出せるかという点でなかなか難しいのではないでしょうか。
あなた自身が「リスクを抱えて経営すること自体が楽しい」という根っからの経営者気質でなければ、安全に、確実に換金できる売却の方を強くお勧めします。