日本国内の民事法体系の基礎となるのがご存じ「民法」ですが、普段からこれを意識して生活しているという人は多くはないでしょう。
近代民法が整えられてからはかなりの歴史があり、人と人とが衝突し権利同士がぶつかった時の解決手段として機能するのが民法の役割です。
時限措置などが多く頻繁に改正がなされる税法などと違って、法体系の根幹となる民法は改正するとなると影響の幅が非常に広く、その度合いも強くなります。
そのため滅多に改正されることはなかったのですが、今般いよいよ大きな改正が入ることになり、不動産売却や不動産取引の分野にも大きな影響を及ぼすことになりました。
改正点の一つに「契約不適合責任」の新設があり、不動産取引において重要な論点となるものです。
この章では新設される「契約不適合責任」とは何かについて詳しく解説していきます。不動産売却の流れも確認しましょう!
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いよいよ切り込まれた民法改正
現行の民法は明治以来私たちの暮らしの中で存在してきたもので、歴史的にはかなり古いものとなっています。
平成の時代に至るまで長く利用されてきたわけですから、時代の変化に伴って現代の事情とは合い慣れないルールが多くなっていたのも事実です。
とりわけ変化のスピードが激しい現代においては法律が現状についてきていないという指摘が多くなり、内容の改正が求められることになりました。
民法が扱う分野は非常に幅が広く、国民の生活全般にわたる内容となっていますが、各種取引についてのルールも民法に基本原則があります。
この部分にも改正が及んだため、今後の不動産取引においては新ルールの元で実務が進められることになります。
この章で扱う契約不適合責任については2020年の4月に新ルールが施行されることが決まっているので、早い段階で新ルールの内容を理解し、これに対応できるように準備しておく必要があります。
改正についての詳しい情報はこちらから
⇒法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について
次の項では契約不適合責任とは何か、その全体像を掴んでみましょう。
契約不適合責任は瑕疵担保責任に代わる新しい概念
契約不適合責任は法改正によって新しく新設された概念ですが、これに伴って従来の「瑕疵担保責任」という概念が無くなることになりました。
瑕疵担保責任というのは、取引対象となる特定物について隠れた瑕疵がある時にその責任は原則として売り主が負うというルールです。
詳しくは『不動産売却で問題になる「瑕疵担保責任」とは?』で説明しています。
特定物というのは他の同じ性質のものでは代替が利かないものをいい、不動産もこれにあたります。
例えば戸建ての家を売買するシーンでは、買い手は自分で内見するなどして「この家Aが欲しい」と思って契約することになります。
同じ戸建物件でも他では代えられない特定の家Aでなければならず、このような性質を持つものを特定物といいます。
これが例えばお米を10キログラムを買うという場合は、銘柄等が同じであればお米自体の個性は特に問題にならず、こちらを不特定物といいます。
不動産取引は特定物の取引となるので、これに雨漏りや基礎の不具合など隠れた瑕疵がある時には瑕疵担保責任をどうするのかが問題となります。
しかし今後は、法改正によって瑕疵担保責任という概念がなくなり、契約不適合責任という新ルールに統合されることになります。
契約不適合責任のルールの元では、特定物か不特定物かの違いは関係なく、契約された内容に適合しない「不適合なもの」が引き渡された時に生じる責任が問題となります。
そして「契約の内容」とは単に契約書に記載された条項や文言だけでなく、当事者が契約するに至った経緯やその目的など、一切の事情を考慮して判断されることになります。
例えば買い手側の売買取引の目的が、購入した後で転売することである場合にはその目的が果たされるような適合物を引き渡さなければならないことになり、単純に買い手が居住して利用するケースとは前提条件が異なってきます。
この点、「契約の内容」は目に見えづらく契約当事者で意思の疎通が難しくなることが予想され、トラブルの種になることが危惧されています。
瑕疵担保責任がなくなり契約不適合責任が新設されたことについて、全体的にやや買い主側有利に傾いた印象がありますが、売り主側にとって有利か不利かというのは一概に判断することができず、個別の状況によって変わってきます。
この項では契約不適合責任がどのようなものか全体像を確認しましたが、次の項からは瑕疵担保責任と比べて具体的に何が変わるのか確認していきます。
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責任が発生する期間が延びる
瑕疵担保責任を考える場合、売り主にその責任が及ぶ「瑕疵」は契約時点までに存在したものが対象となります。
これが、契約不適合責任を考える場合にはその不適合については物件の引き渡し時点までに存在したものまで含むことになります。
責任が発生する期間が延びるという点において、売り主に不利となります。
隠れた瑕疵である必要がなくなる
瑕疵担保責任で問題となるのは「隠れた瑕疵」でした。
これは例えば通常の生活では知ることが難しい初期の雨漏りや基礎のシロアリ被害など、買い手も売り手もすぐには分からない瑕疵がその対象となるものです。
これが契約不適合責任では隠れた瑕疵である必要がなくなります。
例えば壁紙の亀裂など契約当事者が目で見てすぐに分かるような不具合であっても、契約上で壁紙に亀裂が無いことが条件となる場合には契約不適合となるので売り主が責任を追及されることになります。
買い主の救済手段が増える
瑕疵担保責任では買い主側の救済手段としては契約解除もしくは損害賠償請求の二種類しかありませんでした。
契約不適合責任はこれに加えてもう二種類、合わせて四種類の救済手段が用意されています。
瑕疵担保責任において認められていた二種類の手段についても、その適用条件や効果は新ルールの元では変わってくるので、どれも新たなルールとして覚える必要があります。
これら四種類の救済手段についてそれぞれ詳細を確認しましょう。
追完の請求
契約に適合しない物件を引き渡された買い主は、売り主に対して追完請求を行うことができます。
これは引き渡し後に事後的に契約に適合する状態にするため、例えば補修が必要な個所があれば売り主が費用を払って補修を行い、足りない設備があれば追加で設備を備え付けるなどの行為を指します。
ただしその不適合の責任が買い主にある場合は追完請求権を行使することはできません。
また追完の方法について複数考えられる場合、基本的には買い主側で任意の方法による追完を要求することができますが、買い主に不相当な負担を強いることがない場合は買い主が別の方法で追完を履行することも可能です。
この点については、「不相当な負担」がどれだけのものかなど、個別ケースで争いが生じる可能性が十分にあります。
今後、実務上で訴訟が重ねられる中で判断の実例が積み重なっていくことになります。
代金減額の請求
代金の減額請求は当初契約で定めた売買代金の減額を求めるものです。
ただしこの請求権は原則として前述した追完請求権を行使するのが先になります。
まずは追完することを売り主に要求した上で、それでも追完がなされない場合に代金の減額請求ができるという順番になります。
実務的には、まず相当の期間を定めて追完することを売り主に催告し、その間に追完がなされない場合に、不適合の程度に相応しい減額を請求することになります。
ただし、例外的に次のような場合には追完請求をせずに、すぐに減額請求ができます。
- 追完が不可能であるとき
- 売り主が追完を明確に拒絶したとき
- 契約の性質等から、特定の期限までに履行がなされなければ契約の目的を達成できない場合において、その期限を逸したとき
- その他、買い主が催告をしても売り主から追完を受ける見込みがないとき
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損害賠償の請求
買い主は、契約の内容に合致しない目的物が引き渡されたことにより発生した損害について、売り主に損害賠償金を請求することができます。
損害賠償の請求は法改正前の瑕疵担保責任においても買い主に認められていましたが、改正後の契約不適合責任における損害賠償請求権は賠償範囲について売り主側の責任が広がることになるので、これまでと同一の認識でいては危険です。
これまでの瑕疵担保責任における損害賠償では、その「損害」の範囲は狭く、例えば建物の設備の一部の不具合であればそれを補修するのに必要な範囲程度に限られていました。
売り主にとっては万が一瑕疵担保責任を負ったとしてもその範囲でのダメージで済むことになりますが、契約不適合責任における損害賠償ではその損害の範囲は「履行利益」にまで広がります。
「履行利益」とは例えば、買い主がその物件を買い取って転売する目的であった場合、目的物の不適合によってその転売が実現できなかったとすると、その失った転売利益にまで賠償責任が及ぶものです。
売り主にとっては賠償しなければならない損害の範囲が広がり、莫大な賠償金の支払いが必要になる恐れが出てきます。
賠償が必要になる損害の範囲がこれまでの瑕疵担保責任より広くなる点において、売り主側に大変不利となります。
逆に、法改正後の契約不適合責任における損害賠償については無過失責任ではなくなる点で売り主に有利に傾きます。
従来の瑕疵担保責任は基本的に買い主の保護を考えたルールであるため、売り主は無過失責任を負っています。
無過失責任というのは、過失が無くても責任を負わなければならないということです。
普通私たちが生活する中では、例えば自分のミスで相手に怪我をさせてしまったなど、自分に過失(落ち度)がある場合にだけ責任を負うのが普通ですよね。
そうでなければ自分に非がないことでも責任を負わなければならなくなるからです。
しかし瑕疵担保責任は買い主保護という建前上、売り主に責任がない瑕疵についても責任を負わなければなりませんでした。
これが契約不適合責任における損害賠償請求においては、売り主側に責任を追及できる帰責事由がなければ責任を追及されることがなくなります。
契約の解除
契約の内容に合致しない目的物が引き渡された場合に、契約当事者は一定の条件のもとに契約を解除することもできます。
契約の解除権も従来の瑕疵担保責任において認められていましたが、法改正後の契約不適合責任における契約の解除権とは内容が異なるので、こちらも改めて理解する必要があります。
契約当事者のうち、物件を引き渡す義務のある売り主を債務者として、引き渡しを受ける債権者を買い主として見てみましょう。
まず契約債務の不履行がある場合には、売り主に対して相当の期間を定めて債務の履行を催告し、期限内にその履行が無ければ買い主は契約を解除することができます。
ただし、債務の不履行が契約や社会通念に照らして軽微である時は買い主は契約を解除することはできません。
また以下のような場合は催告を経ずに契約を解除することができます。
- 債務の履行が不可能であるとき
- 売り主が債務の履行を拒絶する意思を明らかに示したとき
- 債務の一部が履行不能なとき、あるいは売り主が当該一部の債務の履行を拒絶した場合において残りの部分だけでは契約の目的を達成できないとき
- 特定の期限までに債務の履行がなされなければ契約の目的を達成できない場合に、その期限を逸したとき
- その他、売り主が債務を履行せず、催告をしても契約の目的を達成するだけの履行がなされる見込みがないとき
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買い主の権利行使の期間と方法
従来の瑕疵担保責任においては、買い主は瑕疵を知った時から1年以内に損害賠償の請求等をする必要がありました。
その場合、損害賠償の金額については一定の算定の元に根拠を示す必要がありました。
法改正後の契約不適合責任においては、買い主は不適合を知った時から1年の間に売り主に当該不適合を通知するだけで足りることになりました。
具体的な賠償額の根拠等はなくとも取りあえず相手に不適合を通知することで足り、さらにもし売り主側が物件引き渡し時に当該不適合を知っていた、あるいは重大な過失により知らなかったなど売り主側に一定の責任がある場合は1年を超えての通知でもOKとされています。
時効について
売り主側に一定の責任があり、前項で説明した原則1年を超えて買い主が権利を行使できる場合でも、法律には「時効」というものがあり、一定期間を経過すると権利の行使ができなくなるルールがあります。
改正前の民法における瑕疵担保責任では、権利を行使できる時から10年で時効になるとされています。
対して改正後の民法における契約不適合責任では、買い主が自らの権利を行使できることを知った時から5年を経過した時、または権利を行使できる時から10年経過した時に時効となります。
前者の5年という期間は権利者が自らの権利行使が可能であることを認知してから進行しますが、後者の10年は権利者が自らの権利を認知せずとも期間が進行してしまう点で異なります。
後者の10年は本人が知らずとも時効期間が進んでしまうわけですが、長期間法律関係が不安定のままでいるのは良くないことから、一定期間経過後は本人の認知の有無に関わらず時効が完成するルールになっています。
なお従来の時効のシステムにおいては、時効完成前に相手に催告をする、あるいは裁判を提起するなどして時効の進行を止めたり、リセットすることができるルールがあります。
この中で、時効の進行を一時的にストップさせることを「停止」と呼び、進行した時効期間をリセットしてゼロに戻すことを「中断」と呼んでいました。
これが法改正後は前者を「完成猶予」、後者を「更新」と表現することになります。
細かい話ですが、売り主にダメージを及ぼすことになる買い手側の各種請求について、時効のルールによって封じることができる可能性があることは覚えておいてください。
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契約不適合責任は契約上で調整することができる
従来の瑕疵担保責任も、その責任の範囲や重さなどは契約上で調整することができました。
これによって例えば瑕疵担保責任を全て免除したり、一部を免除する代わりに他の交渉項目で譲歩を迫るなど、交渉上の材料として利用されることがありました。
法改正後の民法においても契約不適合責任は任意規定となるため、契約上で調整が可能です。
ただし、契約上で何も取り決めず条項自体を作らない場合は上述してきた原則論として売り主が一定の責任を負ってしまうことも同じです。
従って売り主側としては、特段の理由がなければ契約上で契約不適合責任について調整することになるでしょう。
一番良いのは売り主が同責任を負わないとする条項にすることですが、相手が納得しなければ契約妥結が遠のいてしまいます。
買い手が納得できる範囲で売り手の責任の範囲や程度を狭めつつ、金額面や他の交渉項目で譲歩しながら詰めていくことになります。
ここで従来からある瑕疵担保責任と法改正後の契約不適合責任の原則論の違いを表にまとめてみます。
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
---|---|---|
責任の対象 | 隠れた瑕疵 | 契約に適合しない事実 |
追完の請求 | できない | 追完の履行が可能であればできる |
代金減額の請求 | できない | 原則として追完が無い場合に可能 |
損害賠償の請求 | ・可能 ・売り主は無過失責任 ・賠償責任は物件の瑕疵を回復させる程度まで | ・可能 ・売り主に帰責事由が必要 ・賠償責任が転売利益等にまで広がる |
契約の解除 | 契約の目的を達成できない場合に可能 | 債務の不履行が軽微である場合でなければ可能 |
権利の行使方法と期限 | 瑕疵を知ってから一年以内に請求が必要 | 不適合を知ってから1年以内に通知 |
時効 | 権利を行使できる時から10年 | ・権利を行使できると知った時から5年 ・権利を行使できる時から10年 |
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今後の実務で気を付けるべき点は?
これまで民法改正よって新設される契約不適合責任について見てきましたが、単純な文言の変更などではなく、ルールの骨格が根本から変わる大改正ですので、また一からルールの理解が必要になるのでなかなか大変です。
このようにルールが根本から変わる際に懸念されるのは、改正ルールに則った実務の取扱いが難しくなる点です。
例えば契約不適合責任では「契約の内容」がどのようなものか、という点で争いが起きやすいことが予想されます。
そしてこの点を新しい民法の条文内は詳細な定義などを示していないので、実際に争いが起きたケースで訴訟上で判断基準が徐々に明らかになり、それが判例として積み重ねられ、実務にフィードバックされていくものと思われます。
細かいところまで文字による条文で規定することは現実的に不可能なため、法改正とはこういうものだと諦めるしかありません。
そうは言っても何も準備しておかないのは適切とは言えませんから、具体的にどのような点に注意しておけば良いのか、現時点で考えられる対応策を考えてみましょう。
契約の内容をできるだけ明確にする
売り主が物件引き渡し後に契約の不適合を指摘されて思わぬ請求を受けないためには、契約書の中でできるだけ「契約の内容」を明確にしておく必要があります。
これにより、取引の対象になった実際の物件との不適合が無いかどうかの判断がしやすくなり、後出しで不適合を指摘されるリスクを減らすことができます。
特に損害賠償の面では転売利益にまで責任が及ぶことになるので、買い手側が物件を購入する目的や動機などを契約条項に入れるようにします。
引渡し確認票にこれまで以上に注意を払う
これまでも物件の引き渡しにおいては設備や物品等の引き渡し確認票を作成し、買い手に交付していましたが、この確認票の重要性が今後ますます上がると思われます。
契約の内容に適合する目的物を確かに引き渡せるように、確認票の作成にあたっては物品や設備等について漏れなく、詳しい状況を記しておく必要があります。
確認票の作成は仲介する不動産業者の担当者が行いますが、売り主としてもその確認作業をしっかり行うようにしましょう。
できれば確認票の作成時点で売り主も一緒に立ち合うようにすると良いですね。
仲介業者が作成する売買契約書のリーガルチェック
仲介不動産業者が作成する売買契約書のひな型は、基本的には中立の立場で作ることになるので、契約不適合責任についても基本的には売り主に絶対的に有利に作成してくれるわけではありません。
従来の瑕疵担保責任の規定のように、適用はあるけれども責任の期間や程度を若干縮めるという折衷案で作成することになる可能性が高いでしょう。
しかし瑕疵担保責任は万が一損害賠償が発生しても賠償額は補修が必要な設備等の価額程度に限られるのに対し、契約不適合責任は転売利益にまで責任が及ぶなど、売り主にとって大きなリスクを背負わせるものです。
こうしたところに手当てがなされていない契約では、トラブルが生じた時に売り主の被害が甚大になる恐れがあります。
従って特に買い主が持つ「追完請求」、「代金減額請求」、「損害賠償請求」の各請求権と「契約解除」の権利について、売り主としてどこまで責任を負うのか、契約条文を読み解き自分で理解したうえで、変更、修正、削除などの要請を行わなければなりません。
例えば以下のような点に着目して、自方に不利にならないかよく吟味する必要があります。
追完請求に関して・・
追完請求については原則として買い手側が追完方法を選択できることになっており、買い手に不相当な負担を課すものでないときは売り手が追完方法を選択できるとなっています。
例えば設備に不具合があった場合に新品の品を追完で求めてくる可能性がありますが、売り主は中古品で十分と考える時、「買い主に不相当な負担」となるのか否かで争いが生じる可能性があります。
そこで契約上での取決めとして、例えば設備に不具合があった時の追完は原則として修理により行い、それができない場合は中古品を調達することする、あるいは追完方法は最初から売り主が指定できることを原則とするなどの手当てが考えられます。
代金減額請求に関して
これについては「不適合の程度に応じて」代金の減額請求ができるとされていますので、その不適合の程度の算定をどうするのかで争いが生じる可能性があります。
算定方法は改正民法の中で示されているわけでありませんので、個別ケースで処理する必要があります。
公平を期すならば適合状態の目的物と不適合が生じた目的物との差額を減額の価額とすることも考えられますが、売り手側のダメージが大きくならないように上限額を設けておくなどの手当ても考えられます。
損害賠償請求に関して
損害賠償に関しては、従来の瑕疵担保責任と違って契約不適合責任の原則論では売り主に帰責事由が無い場合には買い手側が請求することができないようになっています。
そこで、買い手側としてはこれを修正して売り主に過失が無くても損害賠償を請求できるようにしたいと考える可能性も十分にあります。
従って条文の文言から売り主に無過失責任を負わせる内容となっていた場合にはこれを指摘して修正するか、代わりに十分な見返りとして売買金額を上げるなどの工夫が必要でしょう。
また損害賠償責任の範囲が瑕疵担保責任よりも広くなってしまったことを意識して、契約不適合責任の取決めの上ではその責任の範囲を限定することが強く望まれます。
責任の範囲について転売利益などの損害は含ませず対象不動産の不具合を補修するのに必要な範囲までとする、あるいは損害賠償金額に上限を設けるなどの工夫が考えられます。
契約の解除に関して
法改正後の契約不適合責任における契約の解除に関しては、まず一つに債務の不履行が軽微である場合は解除することができないものとされています。
この点「軽微」か否かという点で争いが起きる可能性があるので、簡単に契約を解除されたくない売り主としては、例えば契約解除は従来の瑕疵担保責任と同じように「契約の目的を達成できない時に限り契約解除を認める」などの手当てが考えられます。
また改正法における契約の解除には相手方の過失を必要としないのが原則のため、買い手からの契約解除がしやすくなっています。
契約を簡単に解除されたくないのであれば、この点をカバーするために売り主に帰責事由がある場合に限り契約解除ができるようにしておく工夫も有効です。
「契約不適合責任」のまとめ
本章では、民法改正で新設される「契約不適合責任」という新しいルールについて見てきました。
従来の瑕疵担保責任に代わる新しいルールということで位置づけられていますが、新設されるルールでありまだ不透明な部分もあることから、今後の実務面ではリスク管理がより重要になってきます。
新法における契約不適合責任をそのまま適用させると、ケースによっては売り主に大きな不都合が生じる危険があるので、契約実務ではできるだけ自方に不利にならないような配慮が求められます。
上で見てきたように各細目について検討し、売り主のリスクを下げたりダメージを減らせるように工夫することが可能ですから、これを意識してリーガルチェックを怠らないようにしてください。
この点、仲介する不動産業者が用意する契約書のひな型は基本的に中立性を意識した作りになっていることには十分注意してください。
独自に内容をよく読み込んで、売り主としてのリスクを十分に把握できるように担当者に質問する、場合によっては弁護士等にも相談するなどして自己防衛をする意識が大切です。
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