現在、世の中の夫婦の三組に一組は離婚すると言われていますが、経験者の多くが口をそろえて言うことがあります。
「結婚より離婚の方がはるかに時間と労力が必要だ」
これは、結婚と違って離婚には「清算」しなければならないことが沢山あるのが理由の一つです。
そしてさらに、当事者である二人が同じ方向を向いていないので、意思の合致が難しいためにその清算がスムーズにいかないのが二つ目の理由でしょう。
もし夫婦がマイホームを所有していた場合には、その取扱いについて夫婦間で話し合いが必要になります。
この章では離婚に伴う不動産売却の流れや方法や売却以外の選択肢、またそれらについての問題点について解説していきます。
この記事でわかること
不動産は財産分与の対象になる
離婚事案がらみの不動産売却では、他のケースと違う難しさが絡んできます。
不動産も含めて夫婦が結婚後に築き上げてきた財産は、離婚時には「財産分与」の対象になるため、例え所有権の名義が自分にあっても自由に処分することができなくなります。
これが離婚事案における問題点の一つです。
財産分与というのは、夫婦が結婚後に取得した財産を、一定の取り分に従って分けることをいいます。
例えば夫が働いて稼いだお給料は通常銀行の口座に入っていますが、そのお金を夫と妻の取り分に従って分けて清算します。
例え預金口座の名義が夫のものであっても、また会社からもらうお給料袋の名義が夫名義であっても、そのお金は配偶者の日頃の支えがあってこそ稼げたお金であるという考えから、離婚時には妻の取り分については財産分与として清算しなければならないのです。
取り分については原則として夫婦間で話し合いの上決めることになりますが、専業主婦であっても3割~5割程度の取り分とすることが多いようです。
不動産もこの財産分与の対象になるので、夫と妻の取り分に従って分ける必要が出てきます。
不動産の所有者名義が夫であっても分与対象になるのはお給料と同じ理屈です。
夫婦のどちらかが結婚前から所有していた財産や、相続によって取得した財産などは財産分与の対象にはなりませんが、結婚後に取得したものであれば不動産も財産分与の対象になります。
離婚事案では、例えば妻が引き続きその家に住み続けたいという場合もあります。
子どもが小さく、学校を転校することを嫌がる場合や、妻自身の仕事の都合などもあるでしょう。
離婚事案では夫婦単位ではなく、個人単位での都合が衝突することがあり、そのため問題の解決が難しくなることもあります。
これに加えて、マイホームに住宅ローンが残っている場合には非常に厄介です。
次の項から、離婚時に住宅ローンが残るマイホームをどうすれば良いのか見ていきます。
まずは現在のローン状況を確認
離婚後にマイホームをどのように扱うかは別に考えるとして、まずは対象不動産の現状がどうなっているのかを確認しなければなりません。
まずは住宅ローンがどれくらい残っているのかを確認します。
住宅ローンを利用した金融機関に問い合わせれば確認できますが、できればローンの残高証明書を取るようにしましょう。
次に、マイホームの現在の価値を把握しなければなりません。
離婚事案の場合、財産分与の計算に影響してくるので、できるだけ正確な価値を把握することが必要です。
そのため、一般的な不動産業者の査定よりもさらに精密な不動産鑑定を受けておくと安心です。
不動産鑑定は「不動産鑑定士」という国家資格者が、より専門的な手法で不動産の価値を鑑定するものです。
離婚事案や相続事案などで当事者に争いがあるようなケースでは、精密な価値の把握のために利用されることがあります。
ただ不動産鑑定は費用がかかることもあり、離婚事案でも争いが無いケースでは一般の不動産業者の無料査定で代用することも多いです。
ただし、無料査定を利用する場合でもできるだけ正確な価値の把握が必要ですので、信頼できる不動産業者から必ず訪問査定を受けてください。
簡易査定(机上査定)ではかなり大ざっぱな数字しか分からないので、財産分与の計算で正確性が保てなくなります。

マイホームの現在の市場価値が分かったら、ローンの残額と比較してどちらの数値が大きいか比べてみます。
住宅ローンの残額<市場価値の場合、売却すれば手元にお金が残るいわゆる「アンダーローン」の状態です。
この場合、ローンの債務額を引いた残りがプラスの財産となり、その分が財産分与の対象になります。
住宅ローンの残額>市場価値の場合、売却したとしてもローンが残ってしまういわゆる「オーバーローン」の状態となり、その不動産には実質的な財産価値がないことになります。
このようにして今のマイホームの現状がどうであるかを認識したら、次に対象不動産の具体的な処理方法を検討していきます。
ここでは話の筋を分かりやすくするために、個別箇所で特別に言及する場合を除いて対象不動産の所有権と住宅ローンの名義が夫であるケースを想定します。
離婚後に夫がそのまま住み続ける場合
離婚して妻がその家を出て、夫がそのまま住み続ける場合、夫は自分名義の家にそのまま住み続けるわけですからマイホームの処理方法としてはそれほど難しくはありません。
ただし、財産分与は不動産の所有権とは別問題ですからこちらの清算を行う必要があります。
アンダーローンで市場価値の方がローンの残額より大きい場合、その差額が実質的価値として財産分与の対象になります。
この場合、別途話し合いで決めた財産分与の取り分に従って差額分を分けることになるので、例えば実質的価値の差額分が2000万円で取り分が5対5であれば、家を出る妻に夫が半額の1000万円を交付することで清算します。
もし不動産の現状がオーバーローンである場合には、その不動産は実質的な価値がないことになるので財産分与の対象にはなりません。
離婚後に妻が住み続ける場合
妻がその家に引き続き住み続ける場合は、いくつか思案しなければならない点が出てきます。
現状で、マイホームの所有権と住宅ローンの名義は夫にあります。
この二つの名義をどうするかについて考えなければならないので、この点をケース別に分けて見てみます。
①マイホームと住宅ローンの名義は夫のまま
妻が引き続きその不動産に住み続けるものの、対象不動産の所有権と住宅ローンの名義は夫のままとするケースです。
このようなケースでは通常、妻側の財産分与の取り分を減少させたり、離婚に伴う他の交渉項目で妻側が譲歩するなどして、夫が不公平感を感じないように配慮することが多いです。
ただ、妻は引き続きマイホームに住み続けることができるのでしばらくは問題が生じないかもしれませんが、住宅ローンの名義人は引き続き夫ですから、ローンの支払い義務も夫にあります。
もし夫がその後何らかの理由でローンの弁済を滞らせた場合、マイホームはローン債権者に取り上げられてしまうというリスクがあります。
よくあるのが、離婚時の話し合いでは「大丈夫、俺がちゃんと支払いをするから」という約束であっても、その後、元夫に新しい家族ができるなどして旧マイホームにお金をかけるのが嫌になったり、単純に余裕資金が無くなるなどしてローンの支払いが滞るケースです。
妻側としては、そのようなリスクがあることを承知しておく必要があります。
こうしたリスクに備えて、妻側としては必ず離婚協議書を作成してローンの不払いが生じた時の夫の責任を明確化しておくことが望まれます。
離婚協議書は公正証書として作成することで証拠能力が上がり、もし協議内容に違反する事態となった際にはその被害の回復がしやすくなるのでおススメです。
一つ注意が必要なのが、住宅ローンの契約条件に「ローンの債務者と対象不動産の居住者が同じであること」という内容が組み込まれることがありますが、その場合は居住者が妻ですので契約違反となってしまい、ローンの一括弁済を求められることがあります。
そのため事前にローンを提供した金融機関と話し合いを持ったうえで、合意を取っておくことが望ましいでしょう。
もし話し合いをしなかったとしても金融機関側の出方にはケースバイケースで硬軟あるので、ローンの支払いが順調であれば不問に付されるケースもありますし必ず一括弁済が必要になるわけではありませんが、夫が翻意しないように離婚協議書でローンの不払いに対してペナルティを課しておくなどの工夫も検討します。
②マイホームの所有権名義を妻に変更する
対象不動産について、その所有権の名義を妻に変更し、住宅ローンの名義は夫のままというケースです。
妻は対象不動産の所有権を手に入れることはできますが、ローンの負担者名義は夫なのでその負担はないことになります。
ただし、①でも述べたように後でローンの不払いが生じるリスクは残りますから、この点は承知しておく必要があります。
またマイホームがオーバーローンの場合は実質的価値がありませんが、アンダーローンの場合は市場価値からローンの残額を控除した額が財産分与の対象になるので、所有権を得た妻が夫に対して、財産分与対象額から夫側の取り分について支払いが必要です。
③マイホームと住宅ローンの名義を妻に変更する
妻がそのまま自宅に住み続ける場合、所有権の名義も住宅ローンの名義もどちらも妻に変更できれば、名実ともに妻の物となるのでスッキリします。
ただ、住宅ローンの名義変更は夫婦だけで決められるものではありません。
ローンの債権者である銀行などの金融機関の承諾が必要になります。
ローンの名義を変更する場合、金融機関側としてはその名義人に不払いリスクが無いかどうかチェックしなければなりませんから、当然妻側に審査が入ります。
妻も安定した仕事をしていて収入も申し分なければ名義変更ができますが、専業主婦で十分な収入が無いなどとして金融機関の許可が下りなければ名義を変更することはできません。
もし許可がおりて、所有権及びローンの名義が妻に変更できたならば名実ともに以後は妻がその不動産を維持することになります。
ローンの問題とは別に財産分与の問題もありますから、アンダーローンで実質的価値がある場合には、市場価値とローン残額との差額が財産分与の対象になりますから、夫の取り分を支払う必要があります。
妻が連帯保証人なっている場合は要注意
住宅ローンの契約の際に、妻が夫の連帯保証人になっている場合のリスクについては別に考える必要があります。
連帯保証人というのは、主債務者の弁済が滞った時に主債務者と同等の責任が生じる人と考えていただければ結構です。
連帯保証人は通常の保証人と違って、「先に主債務者に請求してくれ」とか「主債務者に資力があるのでそちらに請求してくれ」といった主張(抗弁と言います)ができないので、ローンの支払いが滞りなく続けられている間は良くても、いざ支払いが遅延した時には大きな責任を負うことになります。
そして厄介なのは、住宅ローンの契約は金融機関との間に結ぶものですから、離婚したからといった理由では保証人を外してもらうことは通常できないということです。
ですから例えば、上で見てきた「離婚後に夫が住み続ける場合」でも、妻の連帯保証人としての責任は基本的にそのままです。
保証人を外れるには別に連帯保証人を用意するか、別の担保を提供するなどの工夫が必要です。
また「妻が住み続ける場合」でローンの名義が夫のままであるようなケースでも、夫がローンの支払いを遅延した際には妻に連帯保証人としての責任が直接降りかかってくることになります。
マイホームを売却せずにどちからが住み続ける場合は、こうした契約上のリスクを十分に考慮しておかなければなりません。
面倒を避けたいなら売却がおススメ
上記では離婚の際のマイホームの取扱いについて、どちらかが住み続けるケースを見てきましたが、離婚事案の場合は財産分与が絡んでくるので少しややこしくなります。
何らかの事情があってどちらかがどうしてもその家に住み続けなければならない事情があるならば仕方がありませんが、そうでなければすっぱりと売却処分してしまって、その売却代金を財産分与の対象にして清算するのが一番スッキリします。
特に前項で見たような連帯保証人として夫婦の一方が関与している場合は、下手にマイホームを残しても後日問題が発生することも大いに考えられます。
負の遺産となる嫌な思い出も残りますし、可能であれば売却処分して新しい家に引っ越した方がその後の人生の再出発もしやすいのではないでしょうか?
売却処分する場合に考えることは基本的に売却代金で住宅ローンの残額をカバーできるか、ということだけです。
オーバーローンとなる場合でも、売却代金に自己資金を追加してローンの完済をすることができれば売却は可能です。
またその場合、ローンの弁済の為に他の財産が消費されることになるので、その分財産分与の対象になる財産全体の価額は減少します。
アンダーローンの場合は、ローンの残額を支払った残りの額が財産分与の対象になりますから、夫婦双方の取り分に従って分けられることになります。
離婚事案では財産分与以外の項目も全体で考えること
離婚の際に不動産の扱いで色々と面倒なことになりそうだということは何となくお分かりいただけたと思いますが、マイホームは財産分与の対象になるのでこの点は間違いなく話し合われることになるでしょう。
ただ、離婚時には財産分与以外にも様々な事柄が話し合われます。
例えば慰謝料や親権、養育費、子との面会交渉権などがあり、それぞれの項目について細部まで詰めて話し合う必要があるのでかなりの労力が必要になります。
そして、マイホームの扱いも含めた財産分与はそれ単体ではなく、上記で挙げたその他の項目と絡めて交渉が進められることになります。
例えば慰謝料を増額する代わりに財産分与の取り分を減少させたり、養育費を減額する代わりに財産分与の取り分を増額したりといった綱引き交渉となるので、不動産だけを考えるのではなく、離婚事案全体として有利に進めるイメージを持って事に臨む必要があります。
相談相手としては不動産業者だけでは対応しきれないことが多くなりますから、離婚事件を扱う弁護士、司法書士、行政書士などの専門家と相談する中で、不動産の処理方法を考えていくと安心です。
もし相手の態度が硬化して交渉が進まなくなってしまうと、離婚調停などで家庭裁判所が関与してくることになるので柔軟な話し合いが難しくなります。
できるだけスムーズに離婚するためにも、上記のような専門家を上手に利用するようにしてください。
まとめ
今回は離婚事案における不動産の売却や利用の仕方、リスクなどの問題点について見てきました。
大きく、不動産は「財産分与」の対象になることは覚えておかなければなりません。
市場価値をローンの残額と比べて、市場価値の方が大きいようであれば、差額を実質的価値として相手配偶者の取り分を考慮する必要があります。
契約上のリスクなどを考えると、マイホームは売却処分して清算してしまうのがスッキリしますが、どうしても理由があってどちらかが住み続けなければならない場合は、ローンの問題などを個別に熟慮してリスクを手当てする工夫が必要になるでしょう。
夫婦の話し合いは離婚協議書にまとめておくことが強く推奨されますので、適宜こちらに対応する弁護士等の専門家の助言を得ながら進めるようにしてください。
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